【VIGALE公道試乗】特別感と大人感が共存するファッションの延長線上にある国産スポーツカー
東京オートサロン2023のARTAブースで発表されたARTA MECHANICS 2号のカスタムカー「VIGALE」。幸運にも今回は、一般納車前のVIGALEに試乗する機会を獲得しました。他に類を見ないデザインと専用開発されたオリジナルのサスペンションやシートなど、注目している方も多いだろう。 2023年5月12日、新木場にオープンした「ARTA MECHANICS & INSPIRATIONS」を起点に、東京都内の一般道を中心に試乗インプレッションを行った。
極低速からでも実感できる質感の高い乗り心地
序盤の試乗コースは、東京湾岸エリアの工業地帯から。しっかり舗装されている道ではあるものの、大型車が日々走る環境のため、決してきれいな道ではない。しかし、やや道幅の狭い路地を30km/hにも満たないスピードで走っていると、想像以上にしっとりとしている乗り味に驚かされた。
VIGALEのベースであるトヨタ GR86は、FT86と呼ばれる初代から数えて2代目にあたり、格段に走りの質感が向上している。それでも、どちらかと言えば元気に走り回る軽量スポーツクーペという乗り味で、より上級のプレミアムスポーツカーと比べると“元気が良すぎる”と感じる人もいるだろう。
ところが、VIGALEの乗り味は非常にしっとりしている。もちろんHKSのハイパーマックス Sをベースにしたサスペンションに交換され、単純な足の硬さは増しているが、角のあるガタガタとした振動を感じない。ダンパーの硬さも適度で、やや大きなギャップを拾ってもすぐに振動が収束される。
「GR86を大人のスポーツカーに仕立てた」と聞いていた通り、乗り味は明らかに1段上がったと言っても差し支えないだろう。
ベース車両の素性を活かした味付け
道幅が広い幹線道路に出ると、さらに足回りを交換した効果が感じ取れた。一般道のためあくまでも流れに任せた速度内ではあるが、車線変更やコーナーでの姿勢変化が少なく接地感がしっかり得られている。試乗したVIGALEは前後で約2.5cm程度ローダウンされており、もともと低重心のGR86の良さが増した印象だ。
ここで冷静に考えてみると、改めて変化の大きさには驚かされる。ホイールは専用デザインのものに交換されているが、タイヤは特別な銘柄に変更していない。そのほか、スタビライザー、ブッシュ類などの交換や追加のボディ補強を行っていないのにも関わらずはっきりと違いが分かる。これは、「ベース車両のアイデンティティを尊重する」というARTA MECHANICSのコンセプトがしっかりと活かされている証拠だ。
GR86は初代よりもボディの剛性が大幅に向上されおり、サスペンションの特性が即走りの質感に直結する。サーキットでタイムを削るためならもっと硬い足にする必要はあるが、快適性を犠牲にせざるを得ない。そればかりか、極度に硬い足はノーマルのボディでは支えきれず、大幅な補強をしなければクルマ全体のバランスを崩すことになってしまう。
その点、VIGALEに装着されたサスペンション「ARTA × HKS-HIPERMAX for GR86」は、GR86のもともと持っている良さを最大限活かして味付けされている。
走りの楽しさを演出しつつ使い勝手と乗り心地を両立したシート
もちろん、スポーツカーらしい軽やかな走りは一切スポイルされていない。エンジン本体には一切手を入れていないものの、1,300kgに満たない車両重量のおかげで十分パワフルだ。そこに「ARTA スポーツマフラー for GR86」が奏でる抜けの良い排気音の相乗効果で、アクセルを踏み込んでスピードを出さなくても軽快な走りを十分楽しむことができる。
そんな走りの楽しさをさらに演出しているのが、BRIDEを共同で開発したというバケットシート「ARTA STRADIAⅢ」の存在だ。セミバケットタイプで強固な剛性感があり、身体をしっかりと支えてくれるため身体が無駄に動かない。日本人の身体に合わせたというシート形状は窮屈感もなく、間違いなく運転時の疲労を軽減してくれるだろう。
また、セミバケットシートとしては珍しく、ベースとなっているSTRADIAⅢにはレバー式のリクライニングレバーが備わる。一般的なスポーツシートではダイヤル式が多く、ちょっとした休憩でシートを倒すのに苦労するものだが、ワンタッチでリクライニングでき使い勝手も申し分ない。さらに、あえて表皮は黒でまとめられ、こだわったという意匠線があることで、シックで上質な室内空間が演出されている点も注目だ。
国産の技術による手間とこだわりが大人のスポーツカーを実現させた
最後になってしまったが、VIGALEのメインでもある外装にも触れておこう。
複数のメディアで既に紹介されているため、今更細かく触れる必要はないかもしれないが、唯一無二のデザインはやはり目を見張るものがある。実際、試乗中の信号待ちで歩道からスマートフォンを向けられ、VIGALEのデザインが目を引くものだということが実感できた。
折り目正しくエッジの立ったシャープなフロントセクションと、国産車でも外車でもない存在感を持ったリアセクション。GR86のワイド&ロー、ロングノーズ&ショートデッキという伝統的なクーペのスタイリングを崩さず、さらに構造変更を必要とするワイド化をせずこれほどの個性を確立しているのは、まさにデザインの妙と言えるのではないだろうか。
塗装に目を移すと、VIGALEのために開発したという「JAPANESE SWORD」のシルバー色に圧倒される。通常こういった色味にはメタリックの粒子を混ぜ、光を反射させるのが一般的だ。しかし、JAPANESE SWORDには粒子感が一切ない。なかなか画像だけでは伝わりきらないかもしれないが、その質感は表面を極限にまで磨いた金属のようにも見える。
整備士、自動車検査員として車業界で15年以上仕事をしてきた筆者として言えば、シルバーでここまでの質感を出すことがどれだけ大変かは想像に難くない。それほどの手間を掛けてでも、いかにもカスタムしましたという派手さに逃げず、大人が似合うスポーツカーに仕上げるというこだわりの現れだ。
特別案がありながら日常の移動でも使える一台
自動車ライターという仕事柄、筆者は隅々まで手が入れられたカスタムカーからメーカー純正のスポーツカーまでさまざまなクルマに乗ってきた。正直なことを言うと、開発者やメーカーの気持ちがこもっていれば、どんな車にもそれぞれの良さがある。
しかし、VIGALEの良さは、これまでのどんなカスタムカーやスポーツカーと明らかに違う。走り一辺倒ではないサスペンションや使い勝手や座り心地の良いシートなど、その味付けが実に絶妙だ。そして、唯一無二のデザインも、オーナーの所有欲を十分満たしてくれるものだろう。
もちろん、サーキットで速く走りたい、誰よりもイベントでとにかく目立ちたいというのであれば、もっとほかの選択肢があるかもしれない。だが、通勤や大切な人とのお出かけなど、ちょっとした日常の移動でも使え、ここまで特別感を得られるスポーツカーはそうそうお目にかかれない。
レースの世界では知らない人のいないARTAの知見と、オートバックスという信頼性も大きな魅力のひとつ。他人と被らず真の価値を求めるのなら、VIGALEは有力な選択肢に成り得るはずだ。
Text:Shingo Masuda
Photo:Takanori Arima
ARTA MECHANICS & INSPIRATIONS
住所:〒136-0082 東京都江東区新木場1-8−9(新木場駅から徒歩約10分)
電話:03-3522-1221
営業時間:金曜 ~ 日曜 11:00 ~ 19:00
定休日:月曜 ~ 木曜
駐車場:あり(満車の際はお近くのコインパーキングをご利用ください)