Essence of Car Life. Vol.4
青果ミコト屋・鈴木鉄平がJack Miller™と送るカーライフ。(前編)
若い世代を中心に、クルマを持つ人が少なくなっているという。でも、クルマのある生活だけがもたらす恩恵や潤いだって間違いなくある。
では、カーライフを楽しむあの人は、どうやっていまの生活へと辿りついたんだろう。そして、こだわりの生地を洗練されたデザインで仕立てる〈Jack Miller™〉の服は、どんな風に映るんだろう。
今回は、全国の農家から個性的な野菜や食料品を仕入れるほか、規格外やイレギュラーなどロスになる食材を活用したアイスクリーム「KIKI NATURAL ICECREAM」を展開する「青果ミコト屋」の鈴木鉄平さんが登場です。
前編は、クルマが好きだという鉄平さんに愛着のあるクルマのことと、取り扱う野菜のことを聞きました。
鈴木 鉄平
青果ミコト屋代表
1979年生まれ。3歳までをロシアで過ごし、帰国後横浜で育つ。幼少期より頭の中は食べることばっかりで、学生時代は一日5食。根っからの旅好きで、高校卒業後アメリカ西南部を一年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。2007年ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。2010年、山代徹さんと、旅する八百屋「青果ミコト屋」をスタート。
Instagram:@micotoya
目次
ーフードロスの食材を使ったアイスクリーム「KIKI NATURAL ICECREAM」をいただきましたが、本当においしいですね。しかも、味噌やワインの搾りかすなど、使っている食材もすごくユニーク。
どんな食材がロスになるか事前にわからないから、メニュー開発もその都度になるんです。いまやメニューのラインナップも160種類以上になりました。農家さんから「規格外のナスが余ったから」とか、「梨の茶色い部分がたくさん出ちゃったからどうにかならないか」とか、相談を受けるようになってきました
ー材料ありきで、メニューを考えるという流れなんですね。
野菜だとそのまますぐに売らなきゃいけないけど、アイスだから冷凍して保存できる。なので、最悪ロスになりそうな野菜があったら、とりあえず送ってと言うこともできます。でも、アイスにすると言っても、絶対的においしいのが条件。まずはおいしいが先。その辺りはうちの製造チームに絶対の信頼をおいてます。
それと、ぼくらとしては、いいことをしているつもりはなくて、フードロスという社会の大きな課題をアイスの力でポジティブに変えられるから、単純にちょっとうれしいしぼくらも楽しい。SDGsというよりも、ピンチをチャンスに変えるっていうノリですね。
ーなるほど。では、クルマのお話ですが、仕入れなどお仕事でも使っていると思うのですが、ズバリ、クルマはお好きですか?
クルマに乗るのも、クルマで生活するのも好きですね。21歳の時に、アメリカ西南部を1年ほど旅しました。76年式の「シボレー」のバンを買って、荷台を全部取っ払ってマットを敷いて寝泊まりしながら、西海岸をぐるぐる回って。それがクルマ旅の原点ですね。
ー“旅する八百屋”と銘打っているだけあって、旅がそもそもお好きなんですね。
ほんとはアメリカ全土を回る予定だったんですけど、クルマもボロいし、あんなにアメリカが広いというのもわかってなかったので(笑)、西南部を回りました。
「ミコト屋」を始めるときも、お店を持つという選択肢はあまりなくて…それよりもまずは自分たちが生産者のところに赴くためには、やっぱりクルマが必要だなと。ということで、いま、お店の前にあるこのクルマで寝泊まりして旅をしながら農家さんを巡ってましたね。
ー聞いているとワクワクします。
キャンピングカーだったら、メシも自分たちで作れるし、荷物もいくらでも詰めるんで、お金があまりかからないんです。ありがたいことに、訪問先の農家さんが畑で採れた野菜とか、食料をくれるんですよ。
ーこの〈メルセデス・ベンツ〉のバンは、どれくらい乗っていたんですか?
ミコト屋を始める前に初めて買ったものなので、13〜14年くらいですかね。
ー思い出がいっぱいですね。
もう、いっぱいありますよ(笑)。農家さんをめぐるときに、鳥取の大山というところに行ったんですけど、そこはずっと緩やかな森が続くんです。その途中で時速10キロぐらいしか出なくなっちゃって、騙し騙し休ませながら、なんとか上まで登ったり。タイヤから火が出た時はほんとにやばかったですね。
ー農家さんも、これで来られたらびっくりしますよね。
ぼくたちがこのクルマで農家さんを訪問すると、すごい喜ばれました。というのも、九州でも北海道でもどこでも、このクルマでわざわざ行ったんです。一般的にバイヤーは、飛行機で来て、タクシーに乗ってきて、ビジネスの話をして、ハイ終わりっていうのが多かったらしくて。ぼくらは、作業を手伝ったり、なんなら泊まらせてもらったり、ご飯をごちそうになったりとか。
僕たちが仕入れたかったのは、野菜だけじゃなくて、その野菜をどんな人が育てているかという、野菜にまつわるストーリーなんです。逆にいうと、向こうにもぼくらを知ってもらいたい。どんな奴らが売ってるのか、安心して託してもらいたい。農家さんのところでは、仕事抜きの話もいっぱいしました。
ーたしかに、このクルマで来たら「ミコト屋」のキャラクターが一発で伝わりますね。
バンに寝泊まりする…そんなスタイルのバイヤーなんていないですよね(笑)。だから、逆に農家さんたちは可愛がってくれたり、面白がってくれたり。
ー燃費の話なんて無粋なのでしませんが(笑)、このクルマの好きなところはどこですか?
繊細さがまったくない、超無骨な作りです。でも、ぼくたちが扱っている野菜もワイルドだし、個人的にぼくの性格もそんなに繊細なほうじゃない(笑)。このクルマは、荷物もぼこぼこ詰めるから、そういう無骨さが好きですね。あとは、古いもの自体がやっぱり好きです。うちで扱っている野菜も新しい品種というよりは、古い品種、つまり在来種という昔から伝統的にいろんな地域で育てられてきた野菜を扱うことも多いんです。
アイスのフレーバーに、甚五右ヱ門味噌というのがあるんです。里芋と味噌で作るアイスなんですが、その里芋はずっと種採り、つまり育てて、翌年の分の種を採取して翌年にその種を植えるというもので、室町時代から繰り返されているんです。現代だと通常は種は毎回買うもの。いまはそういう農業です。
ー室町…なんだか気の遠くなる話ですね。
極端なことをいうと、室町時代の人と同じものを食べているなんて、ロマン以外のなにものでもない。そんなのって星空くらいロマンチックな話になる。とにかく、そういう野菜がまだ残っているならぼくらも大切にしたいなと。
クルマもそうだけど、古くて残っているのはやっぱり誰かが愛してきたから残ってきたと思うし、種を採って品種をつないでいくっていうのも、そこには愛情と知恵と技術と手間と時間がかかって残っていくもの。クルマでも野菜でも、古いものには古いだけ人の思いが乗っかっていると感じます。それは服とかもそうかもしれないけど。
Essense Of Cer life. Vol.4 後編はこちら
Photo_Hiroyuki Takenouchi
Text_Shinri Kobayashi
Edit_Keisuke Kimura